SAPIXが考える中学入試の時事問題対策
サピックス小学部社会科教科責任者
岡本茂雄
重要性(はじめに)
この社会で起きていることを、子どもたちにも
「社会」という言葉の意味を知っていますか。「社会」とは、人々の集まりを示す言葉であり、人々の相互関係のことをも指します。みなさんの家族も小さな社会ですし、学校も、町も、そして世界も一つの大きな社会なのです。私たちはこうした「社会」の中で暮らしています。つまり、社会科を学ぶということは、私たちがどのようなところで暮らしをしているのか、どのような関わりを持って暮らしているのか、どうしてそうなったのか、それらを考えることなのです。
中学入試問題を分析していると、ある一つの傾向に気がつきます。それは、入試問題の中に「子どもたちにも、この社会でどのようなことが起こっているのかを、自分自身の頭で考えてほしい」という、学校側の強いメッセージがこめられているということです。そのことを反映するかのように、近年の入試問題では、「時事問題」に関する出題が多くなってきました。時事問題こそ、現実のさまざまな問題に興味・関心を持って、自分の頭で考えているかどうかをはかる、真の社会科の学力を問う格好の素材と言えるでしょう。時事問題と聞くと、とても取り組みにくいもののように思えるかもしれませんが、決してそのようなことはありません。
毎日読む新聞から、ニュースを見る目を養う
■今週のチェック記事
このサイトでは、毎日読まれている新聞の中から重要であると考えられる記事をピックアップしています。そして、記事を読む上で心がけてほしいポイントを挙げていますので、今起きている出来事について、考える手がかりを持ちながら正しい理解を進めることができるようになっています。まずは、挙げられているポイントに注意しながら記事を読んでみて下さい。記事には難しい内容が含まれているものもあると思います。疑問点が出てきたら、それについてご家族とその内容について話し合ってみましょう。ていねいな読解と多くの会話・討論の経験を経ていくうちに、少しずつ社会の変化が理解できるようになってくると思います。これをきっかけに、日ごろから世の中の出来事に関心を持ち、ニュースを見る眼を養い、みなさんなりの意見や考えを持つようになってほしいと思います。
■復習問題
記事や関連する内容についての「復習問題」を作成しますので、時事問題として問われる知識を確認するとともに、サイトで紹介された内容をどれだけ理解しているかを確認してください。復習することで、受験対策としての学力がより確かなものとなりますし、社会科の学習を大きくサポートするという点においても意味があります。
分析・傾向
2011年度の中学入試においては
時事問題の対策をしているかどうかで差がつく問題が非常に目立ちました。その中でも、昨年の7月に行われた参議院議員の通常選挙、沖縄県の普天間飛行場移設をめぐる問題、国の予算や財政など、国内の政治に関する内容は多くの学校において出題されています。また、そのことについての知識を単純に問うだけでなく、国内の政治の仕組みや政治情勢の背景を理解していないと対応できない高度な内容を問う出題も数多くありました。さらに、話題となったテーマに関連する知識の記号選択の問題や、ある出来事に対する自分の意見を問うような記述形式の問題など、解答の形式もさまざまなものが見うけられます。このような時事問題に対応していくためには、知識を単に覚えるだけの学習では対応できず、物事の本質を理解するための思考力や分析力が要求されているといえるでしょう。こうした状況をふまえた上で、今年の入試問題における出題事例を紹介します。
2011年度入試 出題事例 [1]
青山学院中等部 社会 2011年2月2日実施
青山学院中等部社会で出題された[2]は、横浜市で開かれたAPECという国際会議に関する問題でした。
[2] 次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
昨年の11月7日から14日にかけて、横浜市でAPECという国際会議が開かれました。この会議では、環太平洋経済協力協定(環太平洋戦略的経済連携協定)が注目されました。
問1 文中の下線部を英語の略称(りゃくしょう)で何といいますか。次のア~エの中から1つ選び、記号で答えなさい。
ア TPP イ EPA ウ NIEs エ FTA
問2 文中の下線部に関して、正しいものを次のア~オの中からすべて選び、記号で答えなさい。
ア シンガポール、マレーシア、チリ、アメリカ、ドイツは参加している。
イ 横浜でのAPECで、日本は参加の意向を表明した。
ウ すべての貿易サービスが関税ゼロで取引される自由貿易協定である。
エ ある程度の自由化の例外品目を残している自由貿易協定である。
オ 中国は参加の意向を表明していない。
解説
昨年11月に横浜市で開かれた、APEC首脳会議についての出題です。この会議では環太平洋経済協力協定(環太平洋戦略的経済連携協定)、通称TPPについての話し合いがなされ、日本がその枠組みに加わることに対して、国内でも賛成と反対の両方の意見が出てきました。
じじもんスクラムでは今週のチェック記事「2010年10月30日号(10月27日)」、「2010年11月20日号(11月13日)」において、TPPをめぐる各国の対応やAPEC首脳会議の開幕を扱い、この会議のあらましや自由貿易について解説しています。そして、日本のTPP参加について、良い面・悪い面の両面を考える視点を与えています。本問題は、TPPの枠組みについて正確で多面的な理解が要求されており、高度な内容の出題であったといえるでしょう。こうした問題を解く力を養成するためには、与えられたものを覚える学習ではなく、1つの物事でもさまざまな視点をもとに考えるような習慣を身につけておくことが必要とされています。
多岐にわたる出題傾向
国の政治のほかに、地方自治についても数多く出題されており、地方自治体の仕組みや財政、住民の直接請求権について、その本質を問う出題が見られました。また、東北新幹線の新青森駅開業や羽田空港の国際化、円高が日本に与える影響など、交通や経済の分野からの出題も多く見られました。さらに、世界の国々の様子を問うものもかなりありました。イギリスの総選挙の結果やチリやハイチで起こった地震のほか、ギリシアの財政危機について出題する学校もありました。
子どもたちに、世の中で起こっているさまざまなことに目を向けてほしいという要求の表れのように思います。そして、21世紀の世界が取り組まなければならない大きな課題について考えさせられるような問題もありました。
2011年度入試 出題事例 [2]
フェリス女学院中学校 社会 2011年2月1日実施
フェリス女学院中学校社会で出題された[1]Aの問bは、昨年の広島市で開かれた平和記念式典についての出題でした。
[1]
A 広島市は、中国地方で一番人口の多い都市です。ここは、江戸時代から城下町として栄え、明治時代からは軍事的にも大きな役割を担(にな)う都市となりました。a日清戦争の時には軍の司令部が置かれ、ここから多くの兵士が大陸へ向かいました。b1945年8月6日に原爆が落とされ、大きな被害を受けましたが、その後復興(ふっこう)し、今では、c中国地方の政治・経済・文化の中心となっています。d自動車工業をはじめ工業が発展し、広島湾では養殖(ようしょく)もさかんです。
問
b 広島では、毎年、8月6日、原爆による犠牲(ぎせい)者を悼(いた)み、核兵器による犠牲者を二度と出さないことを誓う平和記念式典が行われています。昨年、この式典では、今までになかった大きな動きが見られました。それはどのようなことですか。
解説
本問題は、昨年、広島で行われた平和記念式典において、国連の事務総長やアメリカ合衆国の駐日大使が出席したことを説明する問題です。このことは今週のチェック記事「2010年8月14日号(8月7日)」で紹介されています。核兵器の廃絶に関する話題として、2009年にアメリカ合衆国のオバマ大統領が「核なき世界」を掲げてノーベル平和賞を受賞しました。世界で核軍縮に対する意識が高まるなか、被爆国である日本の立場としては、核兵器の廃絶に向けて世界の中心的な役割を担うことが期待されています。また、「2010年8月7日号(8月2日)」で紹介した、ビキニ環礁が世界遺産に登録されたことも核兵器の廃絶の重要性を強調しているといえるでしょう。受験生に対して、世界が向き合わなければならないこうした大きな課題について問いかけていることは、世界に向けて視野を広げることの要求といえるでしょう。
こうした話題も...
2010年は平城京に都が遷(うつ)されてから1300年を迎え、奈良を中心に歴史的なイベントが多かったこともあり、入試問題では奈良時代を扱うものが数多くありました。また、カナダのバンクーバーで冬季オリンピック、南アフリカ共和国でサッカーのFIFAワールドカップが開催されたことに関連する事柄も多くの学校で出題されています。そして、話題となったことだけでなく、それと関連するさまざまな分野にも注目して学習を進める必要が感じられる出題が目につきました。このほか、昨年7月に日本の一部の地域でも見られた皆既日食や日本人宇宙飛行士が活動をした国際宇宙ステーションなど、理科に関連する分野からも出題されています。
2012年度は...
2012年度入試においても、社会で起きた出来事に対する深い理解を求めるような出題傾向は、変わらないと考えられます。国内の政治・経済などのほか、日本と世界の国々との関わりにも注意が必要です。時事問題そのものだけでなく、その出来事と関わりの深いことについて特に注意をはらって学習を進めていきましょう。趣向をこらした問題が増える中で、時事問題に向けての対策は不可欠といえます。このサイトでは、世の中で話題となっていることを分かりやすく伝えていきますので、これを題材に社会で起きた出来事を身近に感じ、そして、自分なりの意見を持てるようになっていきましょう。

サピックスの先生が伝授!読売新聞で学ぶ時事問題のポイント





